医学部の建物は非常に古いものが多く、そのうちのいくつかは関東大震災に耐えた といわれている。いわゆる赤れんがの建物と言われている南研究棟はその一つであるが、 手元の資料によれば、大正14年築ということであり、震災は大正12年だから、 正確なことははっきりしない。現在は、地下に精神科の医局、学生 チュートリアル室、二階には整形外科と耳鼻咽喉科の医局、三階には産婦人科の医局が それぞれ存在する。現在の学生チュートリアル室は、もともと精神科の入院病棟だったものが、 窓から鉄格子を外され、共同設備が大幅に改造されて作られたものである。 今となっては殆んどその面影を残していないが、時々、実習で、以前赤れんがに入院していた という話を聞く事があり、精神科の疾患が長期にわたるものであることを感じる。
この部屋は、普段は学生の自習などに使われるが、週に何回かチュートリアルで使われる。 チュートリアルは、6人程度にグループに分けられた上で行なわれ、 例えば、臓器移植に関する文章を読み、問題点をそれぞれがみつけて自分で調べ、発表するという 形式の教育方法である。教官は、学生達がとんでもない方向の議論にいってしまわないように 注意する他はあまり口を出さないので、自分たち自身のいわゆる「学ぶ力」にかかっていると いえるだろう。医学部のチュートリアルは、EBMを 実践できるようにという意図で行なわれていることが殆んどだ。発表は、例えば自分の場合、 高血圧 [pdf]とか コレステロール [pdf] のように作って発表するわけだ。だが、やってみて、インターネットやいわゆるガイドラインに頼ってしまうことが多いのを 感じる。高血圧、コレステロールといったCommon diseaseの場合、学会が疾患の治療ガイドラインを作成している ことが多く、それに従えばだいたいの場合なんとかなるといわれている。 だが、そのガイドライン自体を、引用論文を良く読んだ上で検討するというのが本来の チュートリアルの意図していることであり、単に調べて書いてあったで終ってしまうのでは、 鉄格子のはまった部屋から一歩も出ていない。ガイドラインを読んで、 検査結果を見て、エスカレータ式に治療を行なうのがEBMではないと、EBMの業界では 有名な名郷直樹先生がおっしゃっていたが、統計的に示された客観的なデータを自分で実際の 事例にあてはめるには、ちょっとしたコツや視点の転換が必要かもしれない。
チュートリアル部屋から見える中庭には、誰が遊ぶともしらないブランコや、 誰かが座っているのをみたことがないベンチが置かれており、疲れて一人になりたくなった時には くるといいかもしれない。ただ、以前、精神科病棟として使われていた頃は、 入院患者はどのような気持ちで毎日このような情景を見ていたであろう。
現在の医学部1号館が建ったのは、昭和6年、本館(2号館)が建ったのが 昭和11年となっているから、70年以上経っていることになる。その頃は 日本人の体格は今ほど大きくなかったのか、これらの建物の階段教室の作りつけの椅子、机 は現代人にはちょっと小さいと言われている。近い将来、改築工事の際にすべて新しい大きなものに取り替える という話だが、少々淋しいかもしれない。
写真を良く見てもらえばわかるが、それぞれの座席の 机に、1つ1つインク壷と筆を置くための溝が彫ってある。現在でもこの溝は有効に活用されている。 インク壷の溝はペットボトルか缶、筆用の溝はシャープペンシルや鉛筆を置くために それぞれ使われている。当時は考えられなかったような使い方であっても、 机にとっては嬉しい話かもしれない。ただ、授業中にまで飲み食いする人がいるというのは少々 いただけないことだろう。